いつから嘘をつくようになったのだろう。
ただ、自分に都合のいいように仕向ける言葉だと信じていた。だが、彼 女につく嘘は違う。彼女につく嘘は彼女と自分のため。真実がいつか分 かってしまうかも分からないのに、何時嫌われてもおかしくないのに、 僕は彼女に嘘をつき続ける。彼女はそんなことも知らないという顔で僕 に毎日笑いかけてくれる。彼女に伝えたいことも、僕は何も言わない。

「しょーいちくん」
「なに?」
「外の景色が見たいんだ、カーテン開けてくれる?」

ソファに座ってカーテンの閉まっている窓を見つめ、彼女はぽそりと話 しかけてきた。彼女の用件に返事を返さず僕はカーテンを開けた。彼女 が苦しいのは僕だって分かる。でも、心配をかけて欲しくないのか僕に 笑い掛けてくれる。

「今日は、晴れているんだね」
「うん」
「しょーいちくん、お仕事はいいの?毎日ここに来て貰っちゃって」
「うん、が心配だし」
「でも私の病気は治るんでしょ?この前そう言ってくれた。」
「うん、直るよ」

僕は彼女にずっと笑顔でいて欲しくて、僕は真っ白な嘘をついた。
いつもと同じようにいつ直るのかなって笑いながら言ってくる。それで も彼女に真実は伝えない。彼女が幸せに生きれるなら僕は憎まれ役でも なんでもやる。ただ彼女の幸せを願って。

「正一くん、今日は会議の日だよ。早く行かないと・・・」
「・・・うん。じゃあ、行くね。」
「いってらっしゃい、」

最後に彼女の声を聞いて僕は部屋を出た。
会議が始まっても何も耳に入らかった。頭に浮かぶのは彼女の笑顔。 そんな浮かない顔をしていてはマズイと思い隠していたはずだが、この人 にはバレてしまった。

「正チャン、のことが気になるの?」
「・・・はい」
「そうだよね。今凄く大事な時期だし・・・。あ、そうそう、さっき事務の人が 正チャンに電話だって。ご家族じゃない?」
「わかりました。ではこれで失礼いたします。」

事務に電話が入っている、そのことを聞いて少し引っかかった。が事務へと の道へ足を進める。

「僕に電話が入ってるって、どこから?」
「中央病院からの至急の電話だそうです。」
「え、」

***

「!!」

扉を開けた病室の部屋にはもう誰もいなくて、綺麗に整えられたベットの上に 手紙が置いてあるだけだった。荒れた呼吸を整えたが、内心は凄く不安定だっ た。ベットまでゆっくり歩いていく。一歩一歩踏み出すたびに胸は痛みを増し てゆく。張り裂けそうな胸を押さえ、手紙をとると封筒にはちいさくかわいら しい字で"正一くんへ"と書かれていた。手が震えてきた、情けない。この手紙 は僕が開かなくてはならない、だから震えている手で封筒を開けた。


正一くんへ
ごめんね、いままで黙ってて・・・
この手紙を呼んでくれてるって言うことは、もう私はこの世界にはいないんだ ね。少しさびしいな。
私は正一くんのことを笑わせることは出来なかったけど、もう私が持たないの 知っててわざと手術で直るって言ってくれたね。はじめから知ってたけど、正 一くんのやさしさに触れることが嬉しくて、黙ってた。いままで一緒にいてく れてありがとう。

私は、正一くんと一緒にいられた時間が一番幸せでした。

より


涙は止まることなく流れ出て、
声にならない叫びが喉から漏れて来る。

「僕は、のために何一つしてあげれてない」







嘘で固めた芸術がこの陥没した暗闇に群がればいいのに
(病室には嘘が充満していて彼女の笑顔も僕の作った嘘の塊だった)



080309