「はぁああ・・・」

入江隊長の大きく疲れたため息に私はなんともいえなかった。一応謝った方がいい、そう思い私は頭を下げた。

「本当に、すみませんでした」
「謝って済むぐらなら僕もそこまで君を叱ったりしない。、いったよな?今回の任務に失敗は許されないって」
「・・・・・・。」

帰りたいです。
別に私は弱いわけではありません。ただ、ブラックスペルにぶつかり足を挫いた。 ただそれだけの理由で任務がめちゃくちゃになってしまっただけのことだった。 けれど、それは入江氏にとってはとても迷惑且つ手の施し様がまったくないという私には関係のないことだった。 入江氏は頭を抱え私に説教を垂れるのだ。
もちろんブラックスペルに邪魔をされただなんていえない。言ったらこの後入江氏が私に更に当たってくるだろう。 彼はブラックスペルをあまり好ましく思っていないし・・・私には彼の言葉を右から左へと聞き流すことしか出来ないのだ。 そもそも、私に説教をこんなに垂れるということはそれほど仕事がたくさん回ってきているのだろう・・・。 しかし、たとえそんなことだろうと上司の私情で説教を何時間も聞く気はない。
彼にも仕事は残っているだろう、なのに私に時間を費やしていていいのか?そう思うのもつかの間・・・

「はぁあ、いくら白蘭様のお気に入りだからといって力を抜くなよ。 ・・・もういい。白蘭様へこの書類を渡してきてくれ」
「・・・はい」

私は書類を受け取り、踵を返した。



***



「失礼いたします・・・白蘭様?」

広い部屋を見渡してみても人の姿は見えない。足を進めるとソファーに横たわっている姿が見えた。 近くによって見ると本当にこの人は読めない人だとおもう。不真面目に見える一面もあるが本当は 凄く計画性がある。今見せるこの寝顔がとても子供っぽい一面も見せる。
本当にこの人は・・・読めない人だ。この人が私のことを気に入っている?本当に入江氏は何を考えているのか・・・
私はテーブルに書類を置いて白蘭様の顔を覗き込み、目の前で手を振ったり、何とかして起こそうとした。

「やっぱり、起きない、か・・・」
「・・・ん?あれ?チャン?」
「わっ!あ、すっすみません!」

いきなり白蘭様が起きた・・・びっくりしてとっさに謝ってしまった。彼は一つあくびをして、ソファに座った。

「なぁーに?チャン。僕の寝てるときに・・・」
「す、すみません!えっと、その・・・入江隊長からの書類を届けに・・・」
「ふーん、チャン、正チャンに怒られたでしょ?」
「(・・・どうしよう、)えっと、用件は以上なので、失礼致します!」

いきなり聞かれたくないことを聞かれ、どうしようと戸惑ったが、帰ろうと頭を下げ、 扉へ向かおうとすると腕を引っ張られ、倒れこんでしまった。

「わ!?な、何するんですか!」
「んー?」
「う、腕はなしてください」
「質問してるのは僕なんだけど?で、怒られた?」
「・・・はい、」

白蘭様はにっこりと口に綺麗な弧が描かれた。殺気は抑えているのだろう、しかし、抑えきれていない。 抑えきれないのだろう。のど元に刃先を向けられているようだ。白蘭様は私の腕を掴んだまま言葉を続けた。

「そっかー、任務は別に気にしてないよ。正チャンにも言っておくよ」
「・・・ありがとうございます。あ、の・・・一つ、いいでしょうか?」
「いいよー、なにかな?」
「どうして私がお気に入りなのですか?優秀な人なら私以外にたくさんいますよ?」
「聞きたいことはそれ?」
「・・・はい」

また白蘭様は口に弧を描いた目が離れない。腕に触れている白蘭様の手は冷たい。

「だって、チャンが好きだし」




触れられる距離、
掴めない花

( 逃 げ ら れ な い )



080309